小僧⑨

上京して三年目の春、18才の私のとって忘れもしない事件が起きた。
当時、大学の合格発表の日に学校の校庭で露天ながら帽子を売りに店を張った。
合格した生徒たちは、そこで学生服や帽子を買い揃えるわけだが、売る側にとっては
待ちに待った最高の出番の日で各大学へ手分けして売りに行ったものだが私が担当
したのは東大の赤門前で、商売をしていたが当時は帽子を買うとその場で靴墨を塗り
テカテカに光らすのが流行っていて、殆んどの学生が買ってすぐにそれをやっていた。
そこへ一人の学生が買うやいなや、いきなり丁寧に紙包みした帽子を靴墨を塗るためか
汚い靴で足蹴に地べたに擦りつけ何度も繰り返したものだから、私は頭に血がのぼった。
精魂込めて、苦労して作った製品をいくらお金を出したからって、そんな行為は許せない!
オレも18、カレも18、同じこの世に生まれて何故、環境が違うのか。その悩みが行動に出た。
ウムを言わせず鉄拳を一発かませた。アッと云う間に人だかりがして彼には仲間が加わり
多勢に無勢、気が付いたときは三四郎池の傍で寝かされていた。痛む体で露天に戻ると
棚も商品もめちゃくちゃ、売り上げ銭も無くなり、惨めで情けなくて、涙が止まらなかった。
店に戻るに戻れず一夜をそこで過ごし、昨年辞めた先輩を頼ってそこへたどり着いた。
当然、会社にクビを宣告された。