小僧⑭

今でもそうだが年の瀬になるとなにかと気ぜわしい。冬の季節感が無くなった
昨今の暮れ風景はいつもの月々とたいして変わらないが、あの時代の師走は
忙しかった。暮れの大掃除する日は町内ごとに決められて家ごとに窓や雨戸は
全て開け全員総出で屋根裏から床下まで掃き、一年溜まったごみや要らなくなった
家具や調度品は通りの四つ角に捨て、それが山のようになっていた。当時は車の
通行も余り無く清掃員が何日も掛けて片付けていた。平穏なのんびりした時代だった。
それでも二十五日を過ぎると大きな商店や仕舞た屋(商売してない家)には鳶職たちが
門松作りにやってきた。下半分をきれいな藁で巻き三本の孟宗竹の先を削いで松を数本
重ねたものを円筒にまとめ玄関の左右に飾られて、見るだけで正月の気分が出てきた。
おんなたちも仕事のかたわら掃除や障子の張替えなど手伝い一年の締めくくりをした。
仕事は大晦日までお得意さんへの配達や集金などが集中して忙しさは最高潮に達していた。
台所ではおかみさんとねえやがおせち料理の最後の追い込みで醤油や砂糖などの匂いで
正月気分をいやがうえにも盛り上げ、全員はてんやわんやの仕事に気合を掛け合っていた。
晦日、十一時ごろ。近所の蕎麦屋からの出前でやっと一年が終わった。蕎麦が美味かった。