小僧(26)

患者のなかには、大学の先生、画家、検事、原子力の設計士、小説家等々
優秀な方が大勢いて、それぞれに教えていただいていい勉強になった。
特に二人部屋になったとき原子力の先生と同室で原子の原理や数学の世界など
一から手に取るように説明してくださって貴重な知識と勉学の時間をいただいた。
入院中のある日、ソ連人工衛星が始めて飛んでその仕組みを解説してくださったし、
病気を除けばワンツーマンの体験入学のような誰にも経験出来ない嬉しいさだったこと、
入院中は読書も、絵も画くことも、囲碁、将棋、俳句等々多々勉強させてもらった。
それでも社会から隔離され見捨てられたような寂しさ、独り者の切なさは耐えられず
静かな夜は涙がひとりでに出て、とても悲しかった。
一年有余が過ぎた。母から手紙が来て田舎に帰ってきてしばらく静養したらとのこと、
やもたてもたまらず先生に相談し退院を申しでたが、先生は私の目を見るだけだった。
もう開き直ること、所詮人生は“運”とあきらめること、人生は自分のものと言い聞かせた。
そして退院の手続きをした。25才の秋だった。