小僧一人旅(3)

「あきない」の継続の基本は資本、人脈、技術、創造力、我慢と、そして運で決まる。
どの一つを欠いても成功はおぼつかない。先輩の何人かが会社から独立し商売を始めたが
生き残れたのは誰一人なく、仕入先の生地、付属関係等の会社は小僧の出だしを訝ったが
誠意を持つこと、仕事の内容を明らかにすること、支払いは期日を守ること、それが信用に
繋がる事の実態を痛感した。不安は拭いきれなかったがともかく遮二無二前進しかない。
若かったからこそ、そして一人だったからこそ出来た綱渡りの曲芸みたいなものだった。
業界の製品の流通経路は製造業→問屋→小売屋のルートだが資本の僅かな小僧の出始めは
すぐ売れる商品でお金の回転に結び付け、自らの生活を詰める、ためにはルール違反でも
直接に小売商に商品を売り現金を手にすることが自分にとってなによりの急務と思った。
そこで目に付けたのはアメヤ横丁(通称アメ横)で小僧時代に飛び込みで行った何ヶ所
かの店舗にご挨拶と売れ筋を聞き、アメ横一本に絞りきっての商いのスタートにした。
アメ横は戦後の露天商の集まりから出来た集合体のような感じだがその場所を基点に
成功を収めた人々も多く、戦後の混乱そして成長の一つの象徴と捉えていいかも知れない。
小僧の商売もその「おこぼれ」をいただいたが、思うにつけ今も足を向けて寝られない。
勤めていた会社には仕事上の迷惑を掛けたくなかったので、新しい市場を開拓しながら
売り先のみならず職人さんや仕入先にも気を配って競いごとを避けるように商売をした。


ps 明日より江戸を離れて旅にでます。しばらく休みます。