父の日

父が逝って20年の歳月が流れたが今もときどき、その面影が頭をよぎることがある。
戦時中、父は姫路師団の騎兵に属していたが支那事変のさなか成都攻略戦で負傷して
退役となり、その後何度かの赤紙が来て家族と暮らした日々はそれほど多くはなかった。
若い日々の父は格好良かった。当時の兵隊でも騎兵は憧れの的で、黄色の襟章をつけて
馬に乗る姿は軍隊の華といっても過言でない。その上ラッパが吹けた事が特別なもので
一度観覧したとき軍列の端で目立っていた。私が父を男として尊敬出来た原点だろう。
家庭では子供たちには厳しく、そして優しかった。間違ったことをすれば頬にビンタが
なったし、反面勉強を教えてくれ、風呂も子供と一緒で、夜は父の浪曲が子守唄だった。
子供は親を選べないが私にとって厳しい父と優しい母に生まれた幸せをつくづくと思う。
何年か前に帰郷した時、弟や妹に「兄ちゃんはお父ちゃんに似てきたなぁ・」と言われ
嬉しさと懐かしさが沸騰したが、孝行の足りなかった悔いは、時が過ぎても変わらない。
時代が代わって自分が親となり子供たちを育て、果たして父としての役割が出来たのか
いささか自信がないが、子供たちはそれぞれに独立し孫も出来たので、お役目ご免だ。
最近のデパートやスーパーでは、ここぞとキャンペーンに明け暮れているが、贈り物の
ベストスリーは、衣類は甚平、飲み物は日本酒、健康グッズはマッサージ器だそうだが
なにも商売の宣伝文句に乗って儲けさせることは無い。ほんとの親孝行は接点を持ち
「ありがとう」の言葉でいい。男には贈り物は要らない。