夏の終わりに(1)

立秋処暑を過ぎてのうだる暑さは身にこたえるが今年もまた向島百花園では
「虫ききの会」が行われて秋の気分を少しでも感じようと人が集まっていた。
近所の公園を歩いていたら道端に蝉の亡骸が落ちていた。成虫になって一週間の
寿命なのに生きる全ての器官が整い姿も美しくなんてもったいない神の仕業かと
残酷に思えてくる。一寸の虫にも五分の魂があるように精一杯恋をして産卵して
子孫を残すために僅かの命を捧げる自然の摂理と時間の大切さを教えてくれる。
「恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」蛍とて蝉と同じく一週間の
期間しか与えられない短い夏の貴重な時間は美しく燃える宝石のようで愛おしい。
うだる夏の日も終わりに近づいて懸命に生きたトンボもバッタもカゲロウたちも
今年の役目が済んで次の世代へ移っていくと思うと無常観に悲しくさえ感じる。
私も70回以上も夏を経験出来たのに君はたった一回なんて世の中不公平過ぎる!
亡骸を手にして神様に文句を言った。神様は無言だったが秋の気配の風が答えた。
「70回の夏」それは年輪の太さのように忘れられない夏もなんとなく過ぎた夏も
記憶の部屋の中に積み重ねられて老木となり、やがて枯れていくことだろう。
人間にとっては夏の暑さも虫たちにとってはかけがえのない一生一度の青春だ。
四季を通じて夏の思い出は最も鮮烈に残るのは燃え盛る太陽のせいかも知れない。
「嘘の通った昔のことも 嘘のつけないきのうきょう」  駄作