夏の終わりに(10)

口惜しかった。多勢に無勢ではどうしようもなく手を抑えられ殴られ蹴られて
抵抗も出来ずに痛みに堪えていたが、仕返しの気持ちだけを持ち続けるのが
精一杯だった。手足はアザだらけで顔は腫れて、どうやら家に辿り着いたが
惨めな姿に両親も驚き、みなに心配をかけたが理由は言いたくなかった。
一対一の喧嘩ならともかく相手のその卑怯さに無性に腹が立ってそれからは
毎日のように各人の家を訪ねて喧嘩を売りに出かけた。なかには親が出てきて
謝ったが煮えるような気持ちは収まらず自らを抑えるには時間が掛かったが
所詮は余所者の哀れさを訴えるようなもので何処も取り上げてくれなかった。
彼女に心配を掛けることも、いい訳がましいことも、めめしく思って諦めた。
ガキ大将に会うのも嫌でますます不登校になり、このことを忘れるためにも
買出しをしたり農家に雇われてコヤシを撒いたり水を汲んだりするほうが、
ヘタな勉強や人間関係に悩むより実用的だし、なによりも生活を支えるのが
先決でいつまでもこだわってはいられない。恋は春の淡雪のように消えた。
神社の狛犬の下の恋文の交換は残念にも思い出になってしまったが、けれど
初恋のときめきや憂いも経験したし、男同士の殴り合いの喧嘩も経験したし、
今に思えば大人への階段を着実に上がっていた時期がそこにあったのだろう。
必死に生きた14歳の青春だった。