長寿社会(4)

戦国時代の初期、北條早雲は伊豆に旗揚げして小田原城を攻め滅ぼし
関東を手にしたときは85歳になっていた。当時の戦国武将としては
領民にも優しく租税も低く抑え、自らは質素倹約に徹し、名君として
崇められた。若き日の辛苦が農民の苦労を知り、彼の真価を作った。
浄土真宗の開祖、親鸞は60歳を超えてから東国に布教の旅に出かけ
80歳を過ぎて弟子や門人たちのために和文の教義書を書き彼の著書の
殆んどが、その頃の作品と言われている。後に浄土真宗を飛躍的に
広めた蓮如にいたっては、80歳を過ぎて5人目の妻との間に子供を
もうけて歌まで作っている。葛飾北斎の名画「富嶽三十六景」は
北斎72歳を過ぎてからの作品だが、90歳で亡くなる直前まで絵を
画き続けた。ゲーテは72歳でピカソは90歳で恋をし、トルストイ
81歳で家出をしたと聞くが、彼らは人生の全てを青年のような気分で
過ごしたに違いない。白寿99歳でモンブラン山頂からスキーで滑降した
三浦敬三さん、93歳で現役の医師日野原重明さん、短距離ランナーの
95歳のフォームは驚異的だが、あの方は65歳から運動を始めたと言う。
「やれば出来る」の教訓を知る思いだ。哲人たちの生涯を見るにつけ
少しでも近づきたいと思う。先日、後藤田正晴さんの訃報が流れたが
91歳の亡くなる寸前まで今の政治を危惧していた。見事な人生だ。
私自身が年寄りと感じたのは孫が出来て家族連中に「おじいちゃん」と
呼ばれるようになってからだが、仕事も現役を続けて日常の暮らしが
以前と変わったこともないし、世の中の景気が好かろうが悪かろうが
生活を膨張させたり萎縮させたりはしない自分流に生きている。