隠居の独り言(1)

昔の隠居は、ある程度の歳になると家督を倅に譲って、郊外の風流な場所に
庵を造り花鳥風月、趣味などに没頭して余生を過ごした。ときには庵に人を
招き、造詣深い茶人たちと管弦や詩歌を詠んだりして季節の流れを楽しんだ。
隠居と言うのは今までの重い荷物や葛藤から解放されて自由気ままに人生の
最終コーナーを歩けるのが定義だった。隠居を語る本は枚挙にいとまが無いが
古きよき時代の彼らのライフスタイルは歳を取った自分の羨望の的に違いない。
けれど肝心の生活費は僅かの蓄えと子供からの仕送りで暮らしていたらしい。
現実の世界は昔も今も変わらないようで余裕の隠居生活を送れたのは一部の
富裕層でしかありえない。時代が過ぎて現代は貧富の差は昔ほどではないが
世の様は変わりに変わって、終の棲家は老人ホームとなり、風流の影さえなく
若い人にお邪魔虫のように扱われて年金とか介護とかに頼って生きねばならぬ。
2007年は団塊の世代が定年を迎えるが彼らの平均貯蓄が1700万円、退職金が
2000万円、厚生年金が月20数万ともなれば子供たちをアテにすることもなく
平成の隠居は江戸の隠居に較べて経済的には遥かに裕福で暮らし向きはいいが
心の豊かさでは江戸の隠居に敵わない。