隠居の独り言(33)

水戸黄門は今ではテレビのヒ−ローだが子供のころは立川文庫の講談本で毎日
読み漁ったものだった。当時立川文庫では子供向けの講談本を多数に発行して
少年たちの夢をトリコにその人気は凄いものだった。「真田十勇士」「一休禅師」
「猿飛佐助」「忠臣蔵」「水戸黄門」等々だが、チャンバラゴッコのヒーローは
時代の知恵者、豪傑、忍者などで「弱きを助け強きを挫く」のがカッコいいと
されて小さな正義感に燃えて遊んだ。覚えているのは剣豪・丹下左膳と相手役
新撰組とのチャンチャンバラバラは日の暮れるのも忘れて遊び、親に叱られた。
講談本は物語が面白いだけでなく歴史の背景を分かりやすく書かれていたのは
立川文庫の素晴らしい業績だし作者たちは忘れたが良い教則本のようだった。
文庫の創立者は姫路出身の立川熊次郎で父の話では我が家の遠縁に当たる人で
よけいに親近感があって誇らしく思った。冊子本は手に汗する物語の連続だが
文中には処世訓まで書かれて子供心に社会の道徳観が知らずに浸透していった。
「苦は楽の種、楽しみは苦しみの種と知るべし、主人と親は無理なるものと思え
酒と色とは敵と知るべし、朝寝すべからず、分別は堪忍なり、小なることは分別、
大なることには驚くべからず、九分に足らば良し、十分はこぼれると知るべし」
講談本、水戸黄門の冒頭の一節だが大正、昭和の始めに育った子供たちの道具の
メンコや凧やカルタ等のヒーローたちは講談本を基にして作られたに違いない。
戦前は今のようにTVやゲームなど無く体を使った遊びが多かったが伸び盛りの
子供たちには良かった事は言うまでもないだろう。幼い子供たちにとっては
現在のほうがとても可哀想な気がする。  つづく