隠居の独り言(117)

人の命とか運とかは分からないものだ。東京葛飾区の慈恵大付属病院の
手術ミスで東京地裁は三人の医師に対し業務上過失致死罪で有罪判決が
あったが事故は4年前の2002年11月に行われた前立腺ガン摘出手術を
受けた患者が医師たちの経験の無い腹腔鏡手術で血管を誤って切断して
大量の出血で死亡したものだ。腹腔鏡手術とは腹部に小さな穴を開けて
先端にカメラが付いた内視鏡でテレビモニターを見ながら患部の切除を
するものだが医師の熟練度が要求される。慈恵大の医師たちはそれらの
経験が無いにもかかわらず、その手術を行ったのだから無謀極まりない。
普通行われる開腹手術をしていれば、無事に患者も退院できたと思うと
残念で仕方ない。「運」を思う複雑な心境が今もなお、頭をよぎるのは
当時、私も前立腺ガンを患い同じ慈恵大付属病院で今回の三人の医師に
開腹手術を受けたのは今回の事件の直前の2002年10月だったことだ。
三人の医師たちは、それぞれとても優しく病気についても細部に亘って
説明してくれて安心して手術室へ入ったものだった。新聞報道等による
無責任で衝動的な安易な行動なんて考えられない。執刀した医師たちは
親身にしてくれてとても感謝しているがあれは仮面だったのだろうか。
けれど医師に腹腔鏡手術を勧められたら患者の立場では断れないだろう。
間一髪の時間の差は神が味方してくれたとしか思えない。亡くなられた人、
医師たち、病院の関係者たち、私や家族も含めて「運」の不思議と残酷を
感じた今度の判決だった。