隠居の独り言(125)

El Reloj(時計)は恋人との逢瀬の時がこのまま止まっていて欲しいと願う
切ないメキシコの歌だが、時の経過の哀しさは恋人達だけのものじゃない。
歳を取れば老いに向かって緩やかに変貌していく自分に気付き着実に人生の
終着駅に辿り着く哀しさを思う。老いは誕生、成長、熟成、そして死までの
通過儀式みたいなもので誰もが避けて通れないものだが、意識や病気などの
変化が起きるまでは他人事のように「思いのほか」で暮らしている人が多い。
しかし脱毛、歯が抜ける、皺が増える、スタミナの減少、睡眠時間の短縮等
肉体の衰えは着実に進み、精神的にも物忘れや相手に妥協出来ない頑固さが
老いを早めてやがてボケに繋がっていく。人生の有限は誰もが等しい事だが
「生き方上手」の著者、日野原重明は「60歳は老人ではない、本当の人生が
始まる再スタートの時だ。自分を育てていく気持ちで苦手な事に挑め。挑戦と
創造性が大事で心にも身体にも冒険をさせろ」と書かれてあるが老いに対して
ネガティブにならず人生の終着駅までは未知への冒険であり年々歳々挑戦する
気持ちを維持することの大切さを語っている。先日、脚本家の久世光彦(70)が
亡くなった。森繁久弥(92)を語った「大遺言書」は傑作で何度も読み直したが
寿命は必ずしも年齢とは一致しない。齢を超越した森繁久弥は90歳を過ぎて
屋敷を新築している。「生病老死」はすでに遺伝子のなかにプロミングされて
いるらしいが押し返す事の出来ない人生の定めだとしたら今更じたばたしても
始まらない。楽しく生きた方がいいに決まっている。