隠居の独り言(126)

「昔は良かった」何も年寄りの口癖の回顧趣味ではない。最近の犯罪の増加は
その「質」を見ても昔では考えられなかった衝動的で残虐極まりないのが多く
倫理観や道徳観のいかに希薄になったか日本人がこんなに堕ちてしまったのか
考えさせられる。かつて秋田、岡山、奈良、藤沢などの猟奇的な事件は何年に
一度の事件だが、昔は父母を殺害すれば「尊属殺人」で理由の如何を問わず
死刑は確実だったし、十両(今の価値で約100万円)盗めば打ち首だった。
不義密通はもちろん重刑で、心中は晒されて非人(最下位の身分)に堕ちた。
けれど刑罰が重かったから治安が良かったのではない。人の気持ちが豊かで
庶民はそれぞれが助け合って誰もが信じ合えた社会があったからこそ犯罪も
少なく仲良く暮らせた。長屋には鍵など必要なく、困った時など米の少々や
オカズの類は融通しあった助け合いの精神が日本人の優しさを醸成していた。
日本の治安の良さは世界に誇れたし国々から羨望の目で見られたものだった。
最近の子供を狙った犯罪や幼児虐待など弱いものを標的にする邪悪な心の病は
いつの日からこうなってしまったのだろう。小さな孫の多い我が家では子供が
遊びに出かけるのは必ず大人が付き添い、小学校の登下校には集合場所までの
送り迎えは習慣的な行事となっている。戦後の貧しさから脱却して経済面は
豊かになり「衣食足りて礼節あり」になるはずが却って心が貧しくなった。
自由を履き違え自分さえ良ければいい利己主義や拝金主義が基になっていると
しか考えられない。家庭では厳父、慈母の喪失、学校では熱血先生は少なく、
成長時に優しさ厳しさを体験しないで大人になった未熟人間は一生直らない。
子供が外で自由に遊べた昔、みなが信じあえた昔、人間同士の情愛が現在ほど
問われる時はないだろう。テレビも車も携帯も無かった時代、「昔は良かった」