隠居の独り言(147)

昭和48年(1968)12月10日、東京・府中刑務所横で東芝府中工場の従業員の
ボーナス約3億円が白いヘルメット姿のニセ警官に奪われた「3億円事件」は
人々を仰天させ、捜査員延べ17万人と捜査費9000万円の大捜査にも拘らず
ついに刑事時効となってしまう。3億円とはどのような大金か当時の庶民には
想像も途方もつかない天文学的な数字だったが、いつ頃の日から億の単位には
驚かなくなった。バブル最盛期の頃は10億単位で土地が転がされてゴルフの
会員権も億単位が普通の時代が続いた。バブルがはじけてもあのライブドア
詐欺まがいのお金でニッポン放送を800億円で買収しようとしても、お金には
麻痺した大衆は驚かなかったし堀江貴文の保釈金3億、彼に買収をたきつけた
村上世彰の保釈金5億と聞いてもさほど遠い世界のように感じないのは日本も
福福しくなったものだと思う。先日の誘拐事件のカリスマ美容外科医の収入は
時給100万円、月収1億円、年収12億円と聞いては常識的な金銭感覚はどこへ
飛んでいってしまったのだろうか。億のお金なんて縁の無い市井の庶民の生活は
「3億事件」時代からほとんど変わらず100円ショップ等のデスカウント店で
買い物して生活費を切り詰めているのに、いつの間にか貧富の差が大きく広がり
過ぎてすっかり定着してしまっている。公園の端で青いビニールハウスに暮らす
ホームレスの人たちがたむろしている風景のすぐ傍の道路では、高級ブランドを
身に付けた若者が歩いている。都心では億ションが発売すればすぐに完売になり
高級な外国車は何ヶ月待ちの状態という。日本はどこへ行くのだろうか。