隠居の独り言(229)

今年のNHK大河ドラマ功名が辻」も次回の49回目で大団円を迎えるが
一年を通じて楽しませてくれたこの大作に携わった方々に感謝したいと思う。
歴史を物語る大河ドラマの大半は当時の権力者か史実を大きく変えた人物が
主人公だが今年のドラマは歴史の流れにはたいして左右されなかった平凡な
夫婦の出世物語で今風に言えば、うだつの上がらないサラリーマン山内一豊
上川隆也)と才色兼備の奥さん千代(仲間由紀恵)の夫婦が一緒になって
織田、豊臣、徳川の三つの一流会社を渡り歩いて土佐支店長にまで出世する
ストーリーは現代にも通じる夫婦のありかたや世間に生きる知恵と才覚まで
教えられているようでとてもいい作品を見た気がする。律儀で真面目一本の
凡庸な男の女房運が良くその奥さんが上手く夫を操って明るくユーモラスに
ドラマを楽しみながら戦国の歴史も学んでいこうという設定の意図は充分に
達成できたと思う。原作の司馬遼太郎の本を読んだだけにどこまでが作者の
気持ちに添ったドラマが出来るのか楽しみだったが、脚本の大石静の出来も
素晴らしく演出家、流れる音楽、出演者達など満点に近いと思うのは泉下の
司馬さんも満足なさっていることだろう。見ていて特に若手の俳優の演技が
とてもよかった。豊臣秀次成宮寛貴、祖父江新一郎の浜田学、山内康豊
玉木宏淀君永作博美ガラシャ長谷川京子などなど今も印象が深い。
晩年は種崎浜の惨劇で暗いものになるが一豊も最期には潔く「全てはわしの
責任だ」と千代に語るのはこのドラマを締めくくる見事な演出になっている。
歴史は英雄や勝者から見るものが多いが敗者や庶民から見る視点も捉えて
功名が辻」はその壁を乗り越えて、あの戦国時代を丁寧に物語ってくれた
最近の大河ドラマの傑作の一つに違いない。