隠居の独り言(238)

最近の事件簿はいじめによる犯罪が多いが、この忠臣蔵の事件も切詰めて考えれば
いじめが起因している。史実は浅野内匠頭吉良上野介に切りつけて切腹をもうし
つけられたが浅野が勝手にキレた狂人として処罰された。それではあまりに浅野が
哀れと後になって忠臣蔵という戯曲が書かれて空前のヒットとなり、お上の裁定と
逆の立場でストーリーが出来上がって芝居に人形浄瑠璃に歌舞伎に発展していく。
一般庶民に受けたのはお上に対しての反抗的精神でその構造は今も昔も変わらない。
その忠臣蔵によればいじめの際たるものは吉良上野介が内匠頭の妻に横恋慕したが
肘鉄を食らった遺恨、内匠頭が賄賂を贈らなかった不満、勅使の式直前に遅刻した
内匠頭に罵倒した事などが積もり積もって、遂に爆発をして上野介に斬りつける。
芝居では上野介が内匠頭に「お前の顔は鮒に似ている、よく見れば鮒そっくりじゃ、
鮒が侍の格好をするなんて初めて見た、わはは、鮒だ、鮒だ、鮒侍だ」とからかう。
内匠頭も一国一城の主、ここで逆らっては身の破滅と我慢して上野介に謝罪をする。
やめておけばいいのに上野介は嵩にかかってさらにいじめる。弱いと見ればさらに
攻撃する陰惨さは最近のいじめっ子とほとんど変わらないが、結果的には上野介の
吉良家一族が命取りになってしまう。言葉にも「強きをくじき、弱きを助ける」は
人道の基本で市井の庶民にまで愛されてここまでくると創作の部分も現実にあった
ものとして忠臣蔵の戯曲は現代に至るまで変わらぬ人気を保っている。芝居の入りが
思わしくないときは忠臣蔵をかければ気付け薬のように興行成績が上がることから
忠臣蔵は芝居の気付け」との謂われもある。昭和33年に映画化された忠臣蔵
長谷川一夫大石内蔵助)、市川雷蔵浅野内匠頭)、滝沢修吉良上野介)その他
鶴田浩二菅原謙次勝新太郎船越英二、小暮美千代、若尾文子山本富士子
京マチ子など当時の大映が総力をあげた超豪華メンバーで作られた。日本映画史の
最高傑作だろう。「おのおのがた、うちいりでござる」どこかで聞こえてきそうだ。