隠居の独り言(253)

時代劇を見るにはその背景を知るのは要だがNHK大河ドラマ風林火山」は
応仁の乱終結した15世紀末に畿内から東北にかけて数多くの一揆が起こり
守護大名一揆勢力との争いが相次いだいわゆる戦国時代だが、そのなかでも
日本の中部地方一体は相模の北条氏康(松井誠)、駿河今川義元谷原章介)、
越後の上杉謙信(ガクト),甲斐の武田晴信が四つ巴に覇を競いあっていた。
その誰もが相手を蹴落とし、いずれは京都に上って天下取りの夢を抱きながら
戦いに明け暮れる。人を見たら泥棒と思え、誰も信用は出来ないし、いつ寝首を
掻かれるか分かったものでなく世の中は弱肉強食の世界で強い者だけが生き残り
弱い者は生きていけない。江戸時代の固まった階級社会もまだ形成されておらず、
身分が低くても実力次第では上位の者をしのいで、のし上がれる下克上の現象は
考えようでは夢を掴める男のいい時代だっただろう。ドラマの舞台の中心である
甲斐でも当主の武田信虎(仲代達也)と息子の武田晴信市川亀治郎)の父子の
骨肉の争いがあり、たとえ親子でも敵味方に別れる情愛の喪失は戦国の象徴だ。
ドラマ2回目はいずれ武田晴信の軍師になる山本勘助内野聖陽)若かりし頃の
出来事で今川家に仕えようと敵将の首を土産に仕官を果たす事柄や仕える大名に
よっては自らの運命が決められてしまう封建時代の背景がとてもよく出ている。
それにしても一人で武者修行の為に各所を渡り歩く苦労は食料も貨幣も宿も無い
当時の事情は想像を絶するがよくぞ頑張れたと思う。群雄割拠の戦国時代の民は
領主によって虐げられ悲惨な生活と思われがちだが、半面にとても力強く生きて
鉄や繊維などの産業が栄え、農地面積も増えて、流通面も飛躍的に伸びている。
戦いに明け暮れて明日の命も保証されない世の中なのに、文化文明が栄えるとは
一見矛盾しているようだが、また生きがいのあるいい時代だったのかもしれない。
時を同じくしてヨーロッパのルネサンスが興きたのも戦乱時代の反動なのだろう。
ドラマにしても歴史認識にしても、見る人は現代の感覚で捉えるが善悪の事柄は
当時に生きた人々の考えを察して把握しないと正確に判断出来ないのは当然だ。
それを念頭にドラマを楽しむと興味は倍加する。