隠居の独り言(254)

人間誰もが人様のことが気になるのは本能的なもので、例えば電車に乗ったとき
座っている前の人達をしげしげと、といって見ないフリして見ているときが多い。
ある日ある時の山手線の中での向かいの若夫婦とおぼしき二人連れ。男の面相は
鬼瓦のようで、黙りこくって口をへの字に結んでいる。男の姿格好からは職業は
分からないが不機嫌そうなあの顔つきは世の中に何か不満でもあるのだろうか?
そこへくると隣の奥方は優しそうな美人だネ。鬼瓦には全然似合わないのだが、
どこで知り合い、どこでこの二人は結ばれたのか、余計なお世話だが馴れ初めの
想像力はどんどんと進むのが常だ。鬼瓦はよほどの資産家だろうか?それとも
よほど女に優しいのか?でも格好を見たかぎりはその二つとも当たっていない。
ともかくこんな美人と連れ立って仏頂面で黙っている男の気持ちが分からないし
彼に添っている女の気持ちも分からない。なににせよ楽しい話題を考えるとか、
嬉しい顔をして奥方に接しなければ折角の巡り合いをダメにしてしまうぞ!鬼瓦!
男というものはなぁ、強くて優しくて、女に尊敬されるくらいにならなきゃだめ!
昔の亭主関白時代はもうとっくに終わっているのを自覚できない男が多すぎる。
気がつけば熟年離婚という事態は、だいたいが男の身勝手の原因が多いようだ。
男と女の出会いは交通事故みたいなもので、どこでどうしてぶつかるかは神様の
思し召しのようだ。関係の無いヒトサマの事で腹を立てるのも無粋の極みだが、
この不釣合いな組み合わせも人の縁の不思議で面白いところで、これで世の中が
成り立っているのだろう。人のフリみて我がフリ直せ、とはよく言ったもので
人の事は分かっても自分の事は分からない。自分だって反省する事は多々あり、
こんな事を書けるのも自分自身が歳を取ったものと感ずるのは若い時には相手の
心を汲み取る事は出来なかったし、浅はかで拙なかった青春時代を思い出しても
恥ずかしく後悔の群落が蘇えるのはとても辛い。世の中の仕組み、男女の葛藤、
自分の事などがやっと分かりかけた年齢になって気がついた時は既に遅いのは
人生の常だが、何もかもが未熟のままで終焉するまでは、これからの出会いも
大切にしたいとつくづく思う。