隠居の独り言(277)

某新聞の人生案内に「実家で1人暮らしの90歳の父の世話を時々やっています。
父は4畳半の部屋でいつも座っています。私が困るのは頑として石油ストーブを
使用し換気をあまりしないしヘビースモーカーなので部屋中臭くてたまらない。
耳が遠いのでTVの音量を大きくするため、こちらも耳が痛くなる。注意しても
言うことは聞かない」とあった。相談者は「老いた立場ではあなたにガミガミと
言われるのは立つ瀬が無いのです。秘訣はお父さんを頼りにしてあげること・・」
それにしても90歳になる男性が1人暮らしとは恐れ入る。気持ちの持ちようとか
元気の秘訣だとか、そんなのはとっくに超越してもはや活淡の心境なのだろうか。
このような相談は、答える側も困るような親子の情愛的な問題で、諸々の事情が
あるにせよ一緒に暮らしてあげるのが一番だが、天下御免の父上には無理だろう。
どんな立派な老人ホームでも他人様の世話になるより、長年暮らした家族の愛情が
いいのは論を待たないが、核家族少子化の時代では哀しいが望むべくもない。
肉親の情は互いに性格も充分に知りあい我が侭も言いあえるので、空気のように
過ぎていくが、でも親しき仲にも礼節あり、老いては子に従う気持ちを忘れると
かえって他人様よりも厄介な問題が生じる。骨肉の争いとはよく言ったもので
NHK大河ドラマ風林火山」も武田晴信市川亀治郎)が気にくわないからと
父親の武田信虎仲代達矢)を生ま身のままで他国へ追放したが、その親不孝は
上杉謙信(ガクト)やその他の近隣の武将たちに事あるごとに、あげつらわれた。
山本勘助内野聖陽)も親に見捨てられ、兄も斬らねばならない運命は肉親の情に
薄い生涯だったが、武田晴信との出会いは互いに似たような寂しい境遇が気心を
接近させたのだろう。武田信玄に限らず信長、秀吉、家康などの戦国大名たちは
それぞれ事情が違うにせよ兄弟や嫡子を斬っている。生きるに必死なその背景は
自分以外は信じられなかった悲しい時代だったに違いない。