隠居の独り言(281)

今年も卒業式シーズンがやってきた。人生の一つの節目の行事で大切にしたい。
昔、といっても昭和20年代に中学校を卒業したが、当時は校長先生のお話し、
在校生の送る言葉、卒業生の答辞などあって、式の歌は「君が代」斉唱のあと
在校生は「蛍の光」で、それに応えて卒業生は「仰げば尊し」を歌ったものだ。
それが学校の卒業式の定番で長年に亘って受け継がれた厳粛な式典であった。
現在の成人式は20歳だが戦前の儒教的な教育では大人になる元服式は15歳で
義務教育の終わる中学卒業が子供と大人の節目の心構えがあった気がしたし
当時の田舎の中学校を卒業する者は大半が農業や漁業など家を継ぎ、あるいは
都会に出て丁稚や仕事に就いたため卒業式は社会人としての出発点でもあった。
今はがらりと様子が違っている。歌にしても最近作曲されたものがほとんどで
「旅たちの日に」「この地球のどこかで」「君に伝えたい」「見えない翼」等々
学校によって、地域によってそれぞれだが、自分には初めて聴く曲ばかりだ。
卒業式の情景は郷愁とも重なるが「仰げば尊し」を聴けば青春の一ページが
いつでも思い出されるのは心の奥底に曲と歌詞が染み込んでいるからだろう。
今の子供たちが大人になった時に、はたして歌った曲を覚えているだろうか。
戦後の教育は「戦前全て悪」の思想で都合の悪い事は戦前に押し付けてきた。
国旗掲揚も国歌斉唱も憲法の「思想・良心の自由の侵害」とばかりに拒んだ
教師もいて教育現場を乱してきた時期もあったがそこは改善されてきている。
ゆとり教育の歪み、いじめ、学級崩壊、教育格差など現場の問題は山積だが
でも、せめて卒業式は「仰げば尊し」を歌ってほしい。そして先生たちには
歌詞の中の「我が師の恩」と崇められるような恩師に目指してもらいたい。
卒業式で無性に泣いたあの日が蘇える。