隠居の独り言(293)

戦国時代を生きぬくためにはリーダー達の生半可な知識や策略では通じない。
場合によっては相手に仏にも鬼にもならないと例え親兄弟でも信ずることが
難しいかは時代のモラルが物語る。己だけが頼りの戦国期の仁義無き戦い
知略を用い武力を生かして食うか食われるかの弱肉強食の時代を作っていた。
誰が信じられる味方で誰が信じられない敵なのか見極めも難しかっただろう。
NHK大河ドラマ武田晴信市川亀治郎)が父の信虎(仲代達也)を追放
するが、その理由も未だに解けていないそうだが、いずれにしても父といえ
追わざるを得ないのは自分の身が危ういからで、相続をめぐる骨肉の争いは
戦国の習いといえ哀しい出来事だ。後に晴信も嫡子の義信を廃嫡して、妾腹の
由布姫(柴本幸)の子の勝頼に武田家を継がせることになるが、晴信の将来の
戦略としても結果的に武田滅亡に繋がるのは先の見通しの難しさを物語る。
晴信の妻の三条夫人(池脇千鶴)や母で信虎の妻の大井夫人(風吹ジュン)は
この追放劇ではどれほど傷ついたことだろう。したたかに生きる戦国の女性は
肉親の情まで捨てて非情に耐えなければならなかった。戦いに明け暮れる夫に
真摯に仕えるのは美しくもあり哀しくもあり日本の女性の美学はその辺りから
生まれたに違いない。ドラマでは山本勘助内野聖陽)は信虎軍に攻められた
真田幸隆(佐々木蔵乃介)の義援のために動くが果たせずにさまよう。けれど
後に真田も晴信の家臣となり武田24将の一人として軍団の中で活躍し強固な
武田家を作っていくが策と策との攻め合い、利と利のむき出しの欲望は人間の
美醜の内面を見るような場面が続く。ドラマはいよいよ佳境に入ったようだ。