隠居の独り言(302)

NHK大河の風林火山武田晴信市川亀治郎)が父の信虎(仲代達也)を
駿河に追放するが親を棄てるというのは姥捨山楢山節考が思い出される。
映画では坂本スミ子が前歯を折ってまで迫真の演技をした「おりん」婆さんは
70歳になれば口減らしのために山に棄てられる村の掟で、降りしきる雪の中を
息子は母を背負って山に向かうが「おりん」はひたすら念仏を唱えて死の旅に
急ぐシーンは思い出しても胸が締めつけられる。大名の世代交代の戦国時代は
実力主義で兄弟の中でも力のあるものが跡目を継いで家来達もそれに従ったし
それは生き残るための知恵で生死を賭けた相続劇であったに違いないだろう。
江戸時代になって争いを避けるために長子相続が定められたが戦国大名の息子に
生まれた晴信は家督争いの渦で父や弟との葛藤は辛いものを乗り越えなければ
己が負けてしまう。親と子は新密度がある半面に何かでこじれると底なし沼の
ように疑心暗鬼の暗闇に堕ちてしまう。戦前まで子供を勘当するのは法律的にも
認められていた親の権利だったし逆に親に危害を加えれば尊属罪で罰せられた。
現代にも通じる財産や権利の相続争いは人間の奥深い心底を見るような思いだ。
ドラマはやっと井上靖の原作の初頭に出てくる青木大膳(四方堂亘)が現れて
山本勘助内野聖陽)との攻め合いが見られるが原作と多少違っても、そこは
動きのある映像の見せ場で死闘する二人の人間ドラマを上手く演出されている。
武田晴信は人を見る慧眼で知られているが駿河浪人の山本勘助重臣の反対を
押し切って家来にするあたりは当時のまだ小国の甲斐にとって知略溢れた人物を
多く集めるのが武田家を大きくする道であったに違いない。