隠居の独り言(357)

NHK大河ドラマの「風林火山」は愈々武田晴信市川亀治郎)の最大の宿敵
長尾影虎(Gackt:ガクト)が登場する。リアリストの晴信とは対照的に戒律の
厳しい真言密教を信仰して生涯不犯を貫いたエキセントリックで苛烈な男だが
一面にナイーブで繊細な心の持ち主だったようだ。後に上杉謙信と名乗る男は
公家との交流も深く和歌に通じ筆も達者で源氏物語も諳んじて、上洛した時に
公家たちと歌会で見事な雅歌(恋歌)を読んだというから、知略と勇気に長けた
戦国武将とはとても信じられない。彼のカリスマ的な人物の大きさは生まれた
場所が越後でなく、戦国時代でなく違った環境で生まれていたなら日本歴史が
大きく変わっていたものと想像するぐらいの麒麟児であった事には違いない。
Gackt:ガクトが演じる謙信像は、もしかして最も近い姿であったと思ってしまう。
ドラマは諏訪で由布姫(柴本幸)が待望の男子を出産する。後の武田勝頼だが
信玄亡き後に武田家の跡目を継いだ彼だったが信玄ほどの器量は無く、やがて
織田信長に滅ぼされて滅亡するが、そのとき既に山本勘助内野聖陽)は無く
草葉の陰で彼は嘆いたことだろう。時は信濃をめぐって村上、小笠原、武田が
しのぎを削り、背後には越後の長尾、関東の上杉、相模の北條、駿河の今川と
雲霞のように兵馬が群がっていた。16世紀の殆どを費やした戦国時代の縮図は
まさに日本の中部地帯で、ドラマの展開はそのさなかの出来事を再現している。
人類の歴史は欲望のぶつかりあいの戦争そのものである事には論を待たないが
戦国のサバイバルゲームで生き残った大名は越後の上杉と北信濃の真田だけで
武将の殆どは夢の途中で憤死し滅んでいった。平成時代の感覚でいえば愚かな
戦さの連続も当時の彼らは懸命に戦って散ったのは本望であったに違いない。