隠居の独り言(416)

ギターを習い始めてかれこれ20年になるが一向に上達しないのは才能と努力が
劣っているので今更嘆いても仕方がない。言い訳がましいいが習い始めの年齢が
遅すぎたし仕事と家庭とギター練習の併用は時間の配分に忙しい思いをしている。
でもそれでいい。自分の趣味としては最適だと思うし好きな歌の伴奏には最高だ。
下手な横好きのうちはいいが、これがプロとなると芸術家の道はとても険しい。
昔は有名な音楽家モーツアルトシューベルトでも生前は赤貧の中に埋もれ
死後になって花が咲いた気の毒な方が多いが、当時は著作権の印税も無く貴族の
保護の下の演奏や生徒の授業料で食べるしかなく生活はとても苦しかっただろう。
今では音楽一本で野垂れ死にする人もなく、当時と違って各種の産業の多様化は、
仕事をしながら音楽を楽しめる事も出来るし音楽を志しながら仕事に就ける事の
出来るのはいい時代の到来とつくづく思う。私の幼い頃でもオルガン等の音色が
聞こえる家の大抵は資産家で音楽を嗜むのは贅沢だと白い目で見られたものだ。
かつての師匠のお嬢さんに村治佳織という世界的なギタリストがいる。彼女こそ
父上譲りの天才的な才能、血の滲むようなストイックな努力、生まれ持つ美貌の
スター・クオリティの三拍子を揃えて世界のひのき舞台で大輪の花を咲かせた。
それは誰だって一流の音楽家になってCDを出し劇場満員のコンサートを開いて
心ゆくまで満足な演奏が出来れば、夢の中の夢の世界、もう何も言うことは無い。
でも山の頂上は岩が多いが、お花畑は斜面に沿って美しい模様と色を競っている。
99,99%の人は頂上を極めずに三合目か五合目で挫折し諦めて、ご来光を拝む人も
僅かなものだろう。でもそれでいい。登る事に意義があって楽しさはそこにある。
自分は一合目半でSTOPだが、好きな楽しみを持てただけでも幸せと思っている。
今は月に一度の割で老人ホームの出前慰問の演奏で遊んでいるが、一合目半でも
待っていてくれる人もいる。音楽の楽しさはプロもアマもない。