隠居の独り言(435)

私達は日本史に書かれたいくつもの俗説を事実だと信じて頭の中に記憶している。
京の五条の橋の義経と弁慶の出会い、日吉丸が矢作川蜂須賀小六との出会い、
新田義貞の稲村ガ崎の祈りなど、まことしやかに筋書きは面白いが、その殆どが
歴史を語り伝えた者が事実を美化して創作した天才的脚本家の傑作なのだろう。
それは大筋の事実が間違っていなければ細かい所に脚色を加えてもかまわないと
近代史学が確立する前の史家は考えた。「古事記」「日本書紀」は天皇家を美化し
徳川光圀の「大日本史頼山陽の「日本外史」も徳川家を美化して書かれている。
川中島の合戦上杉謙信Gackt:ガクト)と武田信玄市川亀治郎)の二人の
一騎打ちはあまりにも有名だが創作物らしく事実は相当に掛け離れていると思う。
NHK大河「風林火山」は平蔵(佐藤隆太)が宇佐美定満緒形拳)の策に従い
今は駿河に住む武田に滅ぼされた諏訪家の遺児・寅王丸(柄本佑)に復讐のため
信玄を襲わせるが、とっさのところで山本勘助内野聖陽)に取り押さえられて
改心するが、今までの父・頼重の切腹、姉・由布姫の死などの経緯を思うにつけ
気持ちが抑えられず信玄の嫡男・義信(木村了)に切りつけ、身代わりとなった
萩乃(浅田美代子)を斬ってしまう。萩乃は三条夫人(池脇千鶴)の嘆きのなか
息が絶える。「信玄暗殺」の真偽はともかくとして寅王丸の抹殺や後の義信廃嫡の
原因がここら辺りにあったのだろう。