隠居の独り言(470)

江戸幕府は250年以上も続いた平和な時代であったから経済的には安定した
長期政権のはずだと思うが、実際は各大名ともに苦しい財政を強いられた。
農民から米を年貢として取り上げ、それをお金に転換して武士の生活を賄う
基盤の経済は、やがて貨幣経済に変換して、商品が米の生産を上回るように
なっていく。米の価格が下がれば給料の遅配・無配が横行し石高が多ければ
家臣や使用人を召抱えねばならず軍役や参勤交代など義務的な出費で各藩は
経済的に衰えていく。後半期に入ると幕府も殆どの大名は大赤字で天文学
借金を抱える各藩はどのようにして危機を乗り越えたのだろうか。8代将軍
吉宗は紀州藩の数百人をリストラ、藩士の給料も相当カットし自らを含めて
質素倹約を徹底する。米沢藩上杉鷹山は奥女中の90%を解雇し交際費は
1500両から200両にカット、藩士も開墾に従事させて一汁一菜を徹底させ、
地場産業を振興し成果を挙げている。庄内藩・本間光丘、長州藩・毛利重就、
松江藩・朝日丹波姫路藩・河合寸翁、長岡藩・河井継乃助など藩の苦しい
財政を切り抜けた名家老もいた。なかでも薩摩藩調所広郷平幹二朗)は
500万両という莫大な藩の借金の財政再建を任されたが強引な手法で実行する。
その額は1両で家族が一ヶ月暮らせた時代に人口約3万人の薩摩藩の10年以上の
財政に相当するが、今の日本の借金にも似た状況は荒療治以外に処方箋は無い。
まず商人から「元金のみ無利子で250年払いにする、よって証文を預かる」と
一方的な言葉で証文を預かり、手に入れたとたん焼き捨てて証拠隠滅をすると
いうトリッキーな手で借金を帳消しにし、果ては琉球から砂糖などの密貿易で
利益を上げて藩の財政に尽くし薩摩の繁栄や軍備の増強など、調所をなくして
後の薩長を中心とした反幕府体制は成しえなかった。自殺という身体を賭して
藩のために尽くした彼は武士の極みと云うべきだろう。NHKの大河ドラマ
篤姫」主役の於一(宮崎あおい)は、まだ歴史には登場しないが幕末辺りの
若き西郷吉之助(小澤征悦)や大久保正助原田泰造)の薩摩藩士の「産声」が
聞こえそうで筋書きがとても面白い。