隠居の独り言(471)

江戸時代までの日本は太陰暦が用いられていた。月の満ち欠けによって一ヶ月と決め
月の出ない新月は一日、満月は十五日のサイクルで一年が過ぎ、閏月は五年毎だった。
明治5年にそれまで1300年にも亘って使ってきた太陰暦をやめて西欧社会と同じ
グレゴリウス暦を導入されて太陽暦になり曜日も設定される。日曜日が休みなのは
キリスト教の「安息日」からの習慣だが宗教的にも関らず世界に広まっていった。
今年の陰暦の元旦は2月7日だが、その頃になると梅も咲き出し、松竹梅の飾りも
陰暦正月の時期に合わせたものだろう。松竹梅は寿命の長い樹木で、お目出度いが
なぜか食べ物屋のメニューの値の高いランク順に松竹梅と書かれているのは面白い。
食べ物屋も「極上、中、並」とするよりも、このほうが粋でウイットに富んでいい。
注文も「並を頼む」より「梅を頼む」と言ったほうが、語感がいいに決まっている。
話しが少しそれた。旧暦では元旦から7日までを「大正月」といい、それに対して
15日前後の数日間を「小正月」と呼ぶようになる。又、正月にかけて働き尽くめで
忙しい思いをさせた女性たちを労わる日で「女正月」とも称されて大店や商店に働く
女性たちは数日間の暇をいただいて故郷に帰り、或いは骨休みにのんびりしていた。
商家の奉公人も「薮入り」で休暇を貰って帰省する人も多く、盆と正月の年2度の
休日は小僧時代を経験した自分にとって嬉しかったし、当時を思うとなぜか涙ぐむ。
今は成人式に礼服や振袖を着て若者は青春を謳歌しているが成人になると法律的に
大人になり全ての行動は自己責任だ。今の若者には奉公も徴兵も無く子供の頃から
親に脆弱に育てられ大きくなれば独身貴族ともてはやされ未だに親に寄生している
輩が多いのは親にも責任が無いと云えない。成人を祝う儀式の始めは「元服」だが
元は「はじめ」服は「きもの」で子供が成長して初めて大人のきものを着る儀式が
小正月」の成人式に連なっている。成人した人は心して大人になって欲しい。