隠居の独り言(480)

もともと日本人は家族、友人、近所付き合い等、気配りをしながら生活をしていた。
思いやり、優しさ、礼儀を知る事など、どの国よりも素晴らしい伝統を誇っていた。
それが一気に崩れたのは高度成長期の電気製品の進歩、特にTVの普及だと思う。
子供たちは家に帰ればTVのアニメ番組に夢中になり、外で仲間と遊ばなくなった。
夕方、お父さんが帰宅して一家団欒のはずの夕飯の時間でもTVは付けっぱなしで
お母さんが調理したご馳走よりも視線はTVに向き何を食べているのか分からない。
誰も口をきかないし、みんなが食卓を囲んでもTVが一台しかないから、なかには
首を捻って後ろ向きで食べている。笑い声が聞こえても番組が笑わせているだけで
あるべき家族の団欒の笑いではない。家族の気持ちが通う、貴重な時間のはずだが
団欒を失ってしまっている。このような家庭に育った子供に優しい思いやりの心が
芽生えるはずもない。年寄りだって某新聞が調べたデータでは65歳以上の老人の
8割は一日9時間もTVの前に座っていることがわかった。なぜ高齢者は9時間も
TVと付き合っているのか、誰も相手にしてくれないからだろうか、けれど習慣は
今に始まった事ではない。若い時分から夫婦間、家族達と話し合う楽しみを作って
こなかった結果であってTVに喜怒哀楽を託す生活になっている。多くの人に会う、
対話の楽しみ、お洒落、ユーモア等、みんなどこへいったのか。最近の若い人は
携帯が必需品のようだが、電車やバスに乗って座って、身体の不自由な人や老人が
乗り込んできても携帯に夢中で「替わってあげよう」という気持ちはさらさら無い。
子供や老人を大切にしてきた日本人らしさの美風はどこへ行ってしまったのだろう。
現代は便利な道具を手に入れた反面に気配りや思いやりの心根を失ってしまった。
古き良き時代、ものは無かったけれど日本人は輝いていた。