隠居の独り言(546)

「花の色は移りにけりな いたづらに 我が身世にふる ながめせしまに」
百人一首小野小町は人生の時の流れを花にたとえて世の無常を詠った。
歳を取ると物忘れや勘違いが多くなるが日々の生活上でも困る時がある。
昔の俳優の名前や映画の題名など、背景は覚えていても固有名詞が急に
出てこないのは愛嬌の内でも、以前会ったことのある人に再会したとき
名前を忘れて恥をかきそうになるのは困ったもので「先日はどうも」と
誤魔化しながら話しを進めているうちに蘇えればいいが、別れてからも
思い出せないのは歳のせいとばかりには言ってはいられない。脳科学者の
養老孟司に言わせれば、忘れたままにしておくといけないそうで思い出す
努力を精一杯することが大事で、その時に脳の中がフル回転をして記憶を
呼び起こす海馬という部分を鍛えるのに繫がるそうだ。この海馬の細胞は
40歳を過ぎると10年毎に5%ずつ死滅するのというのが最近分かってきた。
神経細胞は二度と再生しないから20年間で1割、50年経つと4分の1に
なってしまう。つまり90歳になると記憶、想像、応用などの神経細胞
用を足さなくなり痴呆の症状となって加齢と共にますます加速されていく。
といって人さまざまで、辺りの老人を観察しても歳より老けた人もいるし、
若々しさを保っている人もいる。人それぞれに違うのはどうしてなのか。
脳の老化現象は誰もが避けられないにしても、神経細胞の衰えを遅らせる
予防の手立てをするかしないかで随分と差が出てくる。それは意識の違いで
歳相応の適切な運動と知的刺激による機能訓練を絶えず行なえば神経細胞
いつも活性化しているし脳刺激という意味では芸術に触れるのが良いという。
触れるといっても鑑賞するだけでなく実践するのがいいのは言うまでもないが
絵画、彫刻、陶芸、音楽、手作り等の指先感覚の刺激が脳細胞の活性化には、
うってつけで、生きる目的に芸事を取り入れるのは生きがいにもつながる。
老いることも、また楽しからずや・・人生の極意はまだ先の話だろう。