隠居の独り言(547)

現代では日本人の平均寿命が80歳を超えているが18世紀江戸時代頃までは
幼児の死亡率がとても高く、天然痘、麻疹、水疱瘡、その他の疫病を無事に
通過することが大事だった。いずれにせよ原因も予防も分からない病気には
漢方の医学は無力で、医者に診てもらえる大名や富裕層も余裕のない庶民も
この点は平等で病気に罹れば神社仏閣の参拝、願かけ、占い等しかなかった。
徳川12代将軍家慶が16歳で結婚し56歳までに23人の子女を正室や側室に
生ませたが殆どが幼児期に病死し生き残ったのは将軍家定(堺雅人)だけで、
普通の知能、生殖能力も無かったというから多分は病気の後遺症だったと思う。
それでもドラマの篤姫宮崎あおい)は斉彬(高橋英樹)や斉昭(江守徹)等の
一橋慶喜平岳大)派に乗せられた政略結婚にも承知で夫婦の絆を築いていく。
幕閣に井伊掃部頭直弼(中村梅雀)という人物がいた。というのも肩書きが
彦根藩主といえども個人的には最近まで世間に殆ど知られていなかった。
直弼は先代の14男として生まれ30代半ばまで部屋住みで過ごし、いわば
日陰の身で他家への養子の口も探したが思わしくなく失意の日々を過ごした。
けれど人の運命は分からない。井伊家当主の長男の嫡子が急死し直弼は兄の
にわか養子になったが、その兄もほどなく死亡し直弼は36歳で思いもかけず
彦根35万石の当主になった。その井伊直弼が突如といっていいほどに唐突な
躍進ぶりで幕府の「大老」に推された。井伊家は徳川・筆頭譜代の家柄であり
関が原、大阪の陣以来、合戦には先鋒を務める武家の栄誉を持っており内治の
酒井家とともに「大老」になりうる資格を備えていた。ドラマは大奥内部の
篤姫と本寿院(高畑淳子)・お志賀(鶴田真由)などの醜い女の争いが主体だが、
薩摩では、ようやく西郷(小澤征悦)と大久保(原田泰造)が動き出し、維新の
主役だった二人が芽を出し始める。一方、あの黒船騒ぎから早くも5年が経ち
総督だったマシュー・ペリーはニューヨークで64年の生涯を閉じている。