隠居の独り言(550)

NHK大河ドラマ篤姫」は、家定(堺雅人)の跡目を巡って次期将軍をめぐる
争いが本格化してくるが、紀州の慶福(松田翔太)を推す井伊直弼中村梅雀)は
同じく慶福を推す本寿院(高畑淳子)と会見し盟約を結び、斉彬(高橋英樹)から
慶喜平岳大)を次期将軍にとの密命を帯びて大奥に入った篤姫宮崎あおい)は、
ますます追い詰められる。では幕府の大勢は何故紀州なのか。江戸の後期の将軍は
京の公家と同じで血液さえ残せばよく、あとはお飾りでいてくれればいいという
幕府の官僚や大奥の上臈達の了見で、慶福は僅か10歳の少年だから組みしやすい。
正論から言えば今の国難の中では不適任のはずなのにウツケの将軍家定を推して
政権をほしいままに握っている官僚には都合がよく、英明の誉れ高い一橋慶喜
君主にするには少なからぬ抵抗があった。平成の世になっても官僚中心の政治の
DNAは日本の骨格となっている。紀州尾張藩水戸藩と並んで徳川御三家
ひとつで、8代将軍に紀州の吉宗が就任して以来、最後の将軍慶喜まで「家名」は
違っても最後まで吉宗の血が流れていた。ついでに紀州のことを話せば藩の元祖は
徳川家康の10男頼宣が紀伊の国に55万石で入府したのが始まりだが、地図を
見れば分かるが、なにせ険しい高野山地、紀伊山地などの山深い地形で平地が
少なく米を基本とした経済は55万石という組織を維持しなければならないのは
大変なもので皺寄せのため哀れにも紀州の農民達は全国で最も強い搾取をされた。
江戸時代の農民の納める年貢は諸藩によってまちまちだが平均的には5公5民で
幕府直轄の天領では政治の模範地帯として6公4民が保たれていたために農民の
暮らしも良かった。今でも昔、天領だった関東や東海地方に住んでいる人たちの
おおらかさはその辺りから来るものだろう。諸藩は参勤交代や江戸駐留費などに金が
要るために5公5民が多く、それでも足りない藩では6公4民、7公3民にまで
農民を搾取した。紀州、阿波、琉球などはその典型的で、聞いた話しでは今でも
そこの出身者は故郷自慢をしないらしい。でも苦しさを強いられた地方出身者の
諸藩の下級武士や農民から幕末維新の立役者が出たのはハングリー精神の表れか、
人間の味付け、歴史の妙味の面白いところだと思う。