隠居の独り言(583)

俗に「旗本八万騎」という。徳川家を直接守る「直参」と呼ばれる幕府直属の
武士のことだが、実際には旗本5000人、御家人15,000人ぐらいで、本当なら
戦いが始まれば、すぐ出動しなければならないので待機しているはずなのだが
徳川家康が江戸に入府して以来200年の歳月が流れ天下泰平に慣れてしまった
旗本たちは仕事も無く暇を持て余し軍事訓練はどこへやら、そのうえ米換算の
給料なので物価が上がっても生活は苦しく提灯作り、傘張り、農作業、花栽培
等々のアルバイトに精出す侍が多くそれでも形だけは士分なので町人のように
商売には手を出すことは出来なかった。軍隊は一朝一夕で出来るものではない。
NHK大河ドラマ篤姫」では外様大名で、しかも江戸より最も遠い九州から
久光(山口祐一郎)率いる薩摩兵が大砲や鉄砲も携えた完全武装で1000人近く
江戸入りをしたのは幕府始まって以来の驚天動地の出来事で、見方を変えれば
いかに幕臣達の腑抜けだったかが浮き彫りになってくる。久光の狙いは幕政の
改革だが、天璋院宮崎あおい)にとっては、13代将軍家定(堺雅人)に嫁いで
徳川の人間になった以上、薩摩の方針とは合わないのは当然だが、一行の中に
かつての思い人・帯刀(瑛太)がいるのではと気になっていた。久光との会見で
付き従う帯刀と無言の再会を果たすが互いの気持ちは、いかばかりだったか・・
ドラマでは篤姫と尚五郎が囲碁を指しながら互いの心境を語るシーンは胸を打つが
身分制度の厳しい時代で二人の出会いが可能であったか真相は今では分からない。
落ち込む天璋院和宮堀北真希)が訪ねるが、故郷を捨てることなど出来ないと
和宮は言う。それは家茂(松田翔太)も同じ事で故郷は心の根幹であるのだろう。
その後、二か月の交渉を終えて薩摩一行は江戸を離れた直後の神奈川の生麦で
行列を乗馬で横切ろうとしたイギリス人を無礼千万であると藩士が切り捨てた。
この生麦事件は薩英戦争へと繋がっていく・・幕末の騒乱が遂に火を吹いた。