隠居の独り言(594)

秋も深まったので久しぶりに両国橋袂にある「ももんじゃ」というイノシシ専門の
料理屋で味噌煮込みの猪鍋を食べたがクセ無く煮込むほどに柔らかくとても美味だ。
玄関脇には本物のいのししが一頭ぶらさがって、いかにも専門店らしいが鹿や狸の
料理もあって「通」には評判がいいらしい。モモンジイというのは熊、猪、鹿等の
ケモノの異称で店の名前もこの辺りから出たものだろう。創業は江戸期というから
昔からの老舗であるに違いない。現代は結構な世の中になって何でも食べられるが
その昔は仏教の教えで日本では肉食をしなかった、というのが通説になっているが
これはアテにならない。日本人はあらゆる動物を食べていたのは遺跡から分かるが
猫、犬、牛、豚の家畜から野生の熊、猿、鹿、猪、兎、鳥など殆どが口に入った。
しかし表向きは仏教的な理由から肉食忌避であったから、これらを「薬喰い」とし
猪を牡丹、鹿を紅葉、馬を桜などと季節の風流な花などの名前を付けて食べていた。
ウサギは羽のような大きな耳を持ってピョンピョン飛ぶからあれは鳥かもしれない?
だったら1羽2羽と数えよう。「理屈と膏薬は何処へでも付く」兎は鳥として食べた。
ちゃんこ鍋の具肉は原則が鳥だが、相撲は負けると四つんばいになるので四つ足は
鍋に入れないで手の着かない二本足の鳥が基本になっている。縁起とはそんなもの・
今や一万円札の福沢諭吉は幕末の頃に牛や豚を食べたという自伝録があるし、その
影響で慶応義塾の学生達が日本で初めての牛鍋の愛好者になったらしい。宗教的な
肉食忌避では、インドのヒンズー教では牛は神聖な動物として食べてはいけないし、
イスラム教は豚肉と、何故かアルコールもいけない。インドで生まれ肉食を禁じた
仏教も日本に渡来すれば日本人の卑しい食欲が先行して、今や日本食の美味しさは
世界の人々が認め人気を呼んでいる。山の幸、海の幸など種類が多く季節感があり
新鮮、清潔で何でも食べられる日本は幸せだ。食欲の秋、今年も存分に味わいたい。