隠居の独り言(608)

慶応3年10月13日、慶喜平岳大)は二条城に在京の諸藩約40家を集めた。
城内大広間で諸大名、諸臣は何事だろうと思い息を殺して上段を見つめていた。
やがて将軍が着座し、みないっせいに平伏する。将軍は部下に大政奉還の文書を
事細かに読みあげさせ、そのあと慶喜はおもむろに口を開いて文書の説明をした。
「いま天下の諸侯はもはや戦国のように割拠している。幕府の威令おこなわれず
召せども来ない。このままゆけば日本は300の大小国に分裂するしかないだろう。
いま徳川幕府が政権を朝廷に返還しそれぞれ諸侯が従えばそれが一つにまとまる。
神祖・家康公は250年以上前に天下安寧のために幕府を開きその業を創められた。
いまはそれと同じように天下安寧のため政権を棄てる。神祖の御志と同じである。
天下は朝廷のもので誰のものでもない。棄ててこそ神祖のご遺志を継ぐ事になる」
雄弁な慶喜は丁寧に諸大名に説いた。最後に「異存はあるか。あらば、言え!」
みな微動も出来なかった。突然の意外の上意に誰もが呪縛に掛かったようだった。
やがて「異存無ければよし。されば政権を返上する!」慶喜はおもむろに一同を
見回し、静かに上段から去った。今では二条城内を参観すると大政奉還の場面を
人形を並べて再現され当時を偲ばせるが、平和裏に政権交代を願った将軍慶喜
思惑通りには事が運ばなかった。終わったというより始まりはここから出発した。
西郷(小澤征悦)と大久保(原田泰造)は、公卿の岩倉(片岡鶴太郎)とともに
あくまでも徳川家を倒す計画を進めていた。帯刀(瑛太)は武力反対だが時勢は
それを許さない。鳥羽伏見に集結した薩摩長州はじめ討幕軍と幕府軍は遂に衝突、
戊辰戦争の火蓋が切られた。大河ドラマ篤姫」で帯刀は天璋院宮崎あおい)を
救うため、お近(ともさかりえ)と一緒にお幸(樋口可南子)の元へ向かう。
帯刀に頼まれ、お幸は天璋院に薩摩へ帰るようにとの文を書く。母からの文を
読み終わった天璋院は使者の小の島(佐藤藍子)に帰る事はできないと涙ながらに
語るのは、私は徳川の人間で大奥の皆こそが自分の家族だと言いその説得を断る・・