隠居の独り言(650)

「運は天にあり、鎧は胸にあり、手柄は足にある。何時も敵を掌中に入れて
合戦すべし、疵つくこともなし。死なんと戦えば生き、生きんと戦えば必ず
死するものなり・・武士たる道は不定と思うべからず。必ず一定と思うべし」
謙信(阿部寛)の本拠地・春日山城の壁に書かれたとされる壁書の一部だが、
景勝(北村一輝)も兼続(妻夫木聡)も景虎玉山鉄二)も上杉の武将達は
事あるごとに壁の前に立ち自らの進むべき道を自問自答していたに違いない。
大いなる義というものは要するに仲間や友人との約を守るということであり
謙信にとって、たかがしれた約束でも純粋志向の彼には大切なものであった。
毘沙門天を神と仰ぐ謙信の一神教的な精神とそのカリスマ性は部下の武将の
心深く浸透し上杉軍の強さの基なるものはここにあったといって過言でない。
無信心の自分には書く資格が無いが、信仰心の純粋さと、半面に怖しいのは
現代にも通じて例えば中近東の狂信的な殉教者の行為がそれを物語っている。
越後は日本でも最も雪深い土地で冬は人の行動を削がれるが、そのハンデを
背負ってなお戦国時代で最も強い軍団と周辺大名から怖れられたのも謙信の
“義”の一貫性と雪と寒さに耐えた人々の心と身体の頑丈さが要因にある。
NHK大河ドラマ天地人」は、兼続のもとに初音(長澤まさみ)が現れて
織田信長(吉川晃司)を討つため戦っていた上杉軍が勝利したことを伝える。
年が明けてようやく兼続の蟄居が解かれたが、景勝の家臣に加えてほしいと
せがむ与七(小泉孝太郎)とともに春日山へ戻る。上杉軍は再び出陣の準備を
進めていた。いよいよ天下取りとはやる景勝や景虎に謙信は、戦いの目的は
足利幕府の再興にあり自ら天下を目指す気がないことを告げるが、その辺りは
現実的な織田信長との違いなのだろう。そして突然、謙信は病に倒れる。