隠居の独り言(686)

若い日の秀吉(笹野高史)は見事なオベッカ、気配りで、例えば城攻めのとき
九分九厘は自分で攻め最後の陥落寸前で主君の信長(吉川晃司)に、わざわざ
「敵も必死、なかなか頑強でございます。何卒御大将のご出馬を」と願い出て
気難しい主君に花を持たせる、信長はご機嫌取りとは知りつつ素直に喜んだ。
それが信長にとり仇になるのは歴史の綾だが、主を失った禍を転じて福にする
電光石火の大英断は僅か10日余りで光秀(鶴見辰吾)を討ち、翌年の春には
柴田勝家菅田俊)を越前北ノ庄に自害させ、信長の遺産の殆どを手中にした。
秀吉の政治感覚や人間味は仕えた信長とは反面教師で、城攻めの戦法も信長は
火攻めを好んだが、秀吉は食料攻めや水攻めにより城兵を殺戮せず出来るだけ
外交によって敵を倒したことも当時の戦国武将としても異例であったといえる。
貧しい出自ゆえに人の痛みを知った天才的戦略家の秀吉も晩年には朝鮮出兵
内部粛清、キリシタン弾圧など180度人間が変わるが、それは後年のこと・・
本能寺の変九死に一生を得た景勝(北村一輝)に、秀吉から勝家を討つために
賤ヶ岳の戦いで援軍の要請があったが、当時の越後は景虎派(玉山鉄二)との
内乱が後を引いていた。もし景勝が要請を受けて勝家を挟み撃ちにしていれば
後の秀吉との交渉も対等のものであったのに惜しいことをした。人の運不運は
見えないところで決まるものだが、信長の亡きあと当時の情報量の少ない中で
四散した織田方の誰が味方なのか、上杉の存亡に関る難しい選択でもあったろう。
大河ドラマ天地人は、兼続(妻夫木聡)のもとに初音(長澤まさみ)が訪ねてくる。
秀吉に対する上杉の態度を探るためであった。時が経ち両者の会見場所の落水で
三成(小栗旬)を伴ってきた秀吉と会った際(多分に伝説的だが)相変わらずの
寡黙の態度の景勝であっても、既に天下の時勢は大きく決まっていた。
上杉家が生き残るには秀吉に臣従するために上洛する道しか残されていない。