隠居の独り言(699)

東北地方も梅雨に入って、もともと梅雨が無い北海道を除いて日本列島が
すっぽりと雨の季節になった。今年は例年よりも梅雨入りが遅いそうだが
そのうえ空梅雨で水資源が心配なのは元を質せば人間の自然破壊が原因か・
梅雨時は女性がきれいになるという。湿り気が肌を潤し眩しく映るせいか、
「夜目・遠目・笠の内」は実際より良く見える譬えだが雨の日に傘の中の
女性がなんとなく美しく見えるのは男性の心うちも適度の気温と湿り気が
胸をときめかせるからか?今年売り出された新製品の傘は部分的に透明で
姿が見える企画とのことだが、朧げに見える女性に魅せられた昔と違って
何でもあからさまにする時代の変化が“粋”も失われた気がしてならない。
「身近なる男の匂い雨期きたる」「ふところに乳房ある憂さ梅雨ながき」
女流俳人・桂信子の作だが、妖しげで抑制された女心を詠うエロシズムは
浅はかな男の感性を寄せ付けない。それはともかく雨に濡れて花の数々は
艶やかな色彩を伴う。アジサイ、ショウブ、ホタルブクロ、ツユクサなど・
子供の頃、戦時疎開福島県白河に住んでいたが今の時期は近くの川辺で
無数のホタルが舞っていた。夜は蚊帳の中に入れ点滅する光を楽しんだが
今に思うと可哀想な事をしたものだ。蛍の一生の大部分は川の中で過ごし、
成虫になれば数日の命とは知らなかった。あの蛍たちに心から詫びたい。
淡い黄緑の光が点滅しながら舞い飛ぶのは、いかにも幻想的で平安の昔は
自分の魂が抜け出して彷徨っていると思ったのもうなずける。成長した蛍は
わずか数日の命で恋をして子孫を残す仕事をしなければならない。その間は
水以外何も摂らずに光り続けているというが、命の大切を学んだ思いがする。
数年前に白河の町を歩いたが、すっかり様変わりして昔はどこにも無かった。
「恋し恋しと鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」江戸都々逸より