隠居の独り言(754)

山の中腹にある筑波山神社では11月15日の七五三とあって可愛い着物や礼服を着た
お宮参りの子供や家族の姿が多く見られ、すれ違う参拝者や登山客まで気持ちが寿ぐ。
境内では神社特有のガマの油売りの香具師(ヤシ)たちが巧みな口上と演技をしている。
「サアー、サアーお立合、御用とお急ぎのない方はゆっくりと聞いておいで・中略・・
前足の指が四本、後足の指が六本合せて四六のガマ、おのが姿の鏡に映るを見て驚き、
ターラリターラリと油汗を流す・・中略・・このガマの油の効能は、ひびにあかぎれ
しもやけの妙薬、まだある 大の男の七転八倒する虫歯や出痔の痛みもぴたりと止る・
取り出したるは夏なほ寒き氷のやいば、一枚の紙が二枚 二枚の紙が 四枚 四枚の
紙が八枚 八枚の紙が十六枚 十六枚が三十と、ほれこの通り、ふっーと散らせば
比良の暮雪は雪降りのすがた・・サーテお立合・・どしどし買って行きやれ・・」
ガマの油の口上や演技は日本最古の大道芸ともいわれ芸をする人のパフォーマンスに
時間を忘れて見入ってしまう。実際に「ガマの油」の正体や薬の効き目は定かでないが
芸人は薬を売るというより、話術や居合い抜きなどの保存会ということで面白かった。
ところで「薬九層倍」という。おおむね薬の値段は高いのが通例だ。両生類のガマが
油を出して薬になるなんて信じ難いが「ガマの油」が一缶600円の正札が付いている。
騙されていると知りながら買い求める人の心理は分からぬまでもない。人間、身体が
大事だから、これを付ければ治るといわれれば金は惜しまない。江戸時代の講談にも
孝行息子が随分苦労して病身の母親のために高麗人参一本を買い求めた美談があるが
平成の現代だって、あれこれと保険の効かない高額の薬や、各種のサプリメントなど
信販売などで買うのも人間の弱みなのか。筑波神社に限らず昔からお宮様と薬屋と
繋がりは深かった。薬屋は売るために神社仏閣でお祓いをしていただく、でも健康は
信仰の対象で無く気にしたらキリがない。病は気から、病気とは読んで字の如しと思う。