隠居の独り言(755)

いつか見たDVDでアメリカの黒人のルーツを紹介していたが、物語の中で
ジャズ発生のルーツも描かれていた。ジャズの発生は奴隷制度があった時の
アメリカ南部の黒人が空き缶や廃材を叩いたり南北戦争のときに放棄された
錆びたラッパを吹いたりして音を作り上げていったのが始まりとされている。
楽譜もキマリも何も無いし指揮者もいない。誰かと誰かが“楽器”を持ち寄り
自然発生的に彼らの独自なリズム、メロディー、ハーモニーが生まれていく。
そこには音楽形式の無い即興的で変幻自在な調和が作られ楽譜や符丁などに
囚われない新鮮な音の楽しみが出来た。音楽は音を楽しむ、読んで字の如し。
音楽の原点がそこにあるのだが、やがて彼らは楽器の殆どを難なくこなして、
即興的な音楽演奏の世界は南部アメリカから中南米大陸にまで広がっていく。
楽譜は中世にヨーロッパで発明され、今使われている楽器の殆どもそうだが
私たちが楽器を習うときは最初から楽譜のイロハから教わり楽譜が無くては
演奏不可能というのは現実だが、私たちもヨーロッパ化されているからだ。
歌とギターの師匠で、共演もしていただくManuel氏はペルーの生まれだが
音符も符号も無く、ギター、レキント、チャランゴウクレレマンドリン
全てが超技巧で、そのうえ歌えばコーラスのポイントを捉えて素晴らしい。
音楽はラテン系が主だが、その数知れず弾き語りで歌詞も殆ど諳んじている。
頭の構造はどうなっているのだろう。師匠は子供の頃、家の中に転がっていた
ギターを玩具代わりに触って音楽に馴染み、先生や師匠も付かず音楽を極めて
人が持つ才能の可能性の大きさを実感する思いがする。「極め付き」の言葉は
師匠のために用意されたものだろう。何年勉強しても腕の上がらない自分が
恥ずかしく情けないが、本物の音楽と接しているのは何事に代えられない。