隠居の独り言(873)

19世紀の頃、世界の美しい港のベスト3に挙げられたのはリオデジャネイロ
リスボンコンスタンチノープルだった。しかし幕末に来日したプロイセン
艦長ベルナーは書いている。「長崎の港口はこれら3港の全てに勝っているのは
まるで自然がロマンチックな美と愛に関して成就しうる全てを長崎に集中した」
長崎の景観美は鎖国下にあっても広く欧州に伝わっていた。その長崎を根城にし
船を操り貿易をして世界を見据えていた頃の竜馬は人生で最も光り輝いていた。
大河ドラマ「竜馬伝」も今月で終わるが、坂本竜馬福山雅治)という人間の
幕末の生きた僅か33年間という短い生涯の中で驚くほどの多岐に亘る人脈を
築いたのは生まれつき備わった竜馬の独特の交渉術や外向性があったとしても
時代の変遷期と巡りあわせの強運に恵まれたからに他ならない。身分制の強い
土佐の下士の身でありながら剣術の江戸修行中に幕臣勝海舟と知り合えたのが
きっかけで諸藩の志士、浪士、諸侯、公家、幕臣、商人、外国人等々の膨大な
ネットワークがあって活用したからこそ時代を一変させるまでの活躍が出来た。
竜馬の成し遂げた偉業は「亀山社中」「薩長同盟」「船中八策」「大政奉還」等
彼だけの力量で実現した訳でなく竜馬に魅せられた多くの人々が物心両面の
援助を与え竜馬の無限の力と可能性が花を開かせたといえる。また竜馬自身は
温かい坂本家に育ったせいか女子供の弱者に細かな心遣いの優しい性格だった。
初恋の加尾(広末涼子)、女剣士の佐那(貫地谷しほり)、妻の龍(真木よう子)、
芸子の元(蒼井優)、多くの女性に好かれたのも根っからの竜馬の優しさだが、
それにしても生涯にわたり白刃の下で命懸けて活躍した竜馬だったが、何故か
他の志士達に比べて悲壮感が感じられないのは、いつもアクティブで魅力的な
男の明るい性格が33年の運命の儚さを偉大な英雄として遥かに凌駕している。
突然のように消えた竜馬だったが、その功績は維新の礎にとって計り知れない。
あまりの功績だったゆえに、その役割が終えたとき、神は召されたのだろう。