隠居の独り言(904)

ラテン音楽の好きな一つに挙げるのは殆どの歌が「愛」がテーマであることだ。
それも失恋の恨み節が多いのは他のジャンルの音楽にも共通している部分だが
中でもラテン音楽は歌詞やリズム感が情熱的に表現されている。恋愛と音楽の
共通点は人間の心の中の情感で特に失恋という感情の乱れや悲しみの喪失感を
表現できるのは歌を歌い器楽を奏でることが最適で聴く人の哀愁の心を捉える。
恋は実るに越したことはないが,その殆どが失恋で終わってしまうのが人生だ。
失恋をテーマに音楽や劇に仕立てられるのは心の悲しみや愁いを癒してくれる
芸の要素があるからだ。でも考えてみると一生に何度の実らぬ恋をしただろう。
一期一会の淡い恋もあれば、死ぬほど恋焦がれて心が通じなかった失恋もあり、
なかには叶わぬ恋と知りながら自己犠牲の極みの体験をしたこともあるだろう。
でも男女の間はその殆どが失恋することによって社会や人生の平穏が保たれる。
たしかに失恋は悲しいが苦悩を体験して恋の美しさや儚さを分からせてくれる。
モーツアルトショパンチャイコフスキーも失恋の苦しさの中からあの美しい
旋律が生まれた。浄瑠璃やオペラが聴衆にとり感動を呼ぶのも愛の悲しさであり
結末の哀れさによる。音楽は人間が持つ深い情感の結晶であるのは論を待たない。
反面に才ある人でも恋をした事がない、恋はされるものだと思っている人もいる。
若いときから、ちやほやされて、ひとに対して、かしずいたことがない。いつも
かしずかれてきたせいだろう。たとえ天才演奏家でも、その人に技術があっても
歌心が聞こえない。悲しみを乗り越えてこそ深みが醸し出すのが本物の芸と思う。
音楽にたくさんの恋の歌が多いのも歌の起承転結は恋の遍歴そのものではないか。
ラテンの恋々しい歌を歌うとき青春はどこまでも続いている。