隠居の独り言(912)

卒業シーズンを迎えている。爺としての卒業の一つに末の孫が四月に幼稚園に
入園するので、これまでお昼寝のときに歌っていた子守唄も卒業の納めになる。
初孫から数えて十数年間のお休みタイムに歌った爺の子守唄は古い歌ばかり・・
明治・大正・昭和の頃に歌われた童謡や尋常小学校唱歌が大半を占めていたが
孫たちもいつか歌に込められた古い文化や伝統の意味が分かる日がくるだろう。
「赤とんぼ」「故郷」「この道」「あの町この町」「村祭り」「夕焼け小焼け」等々
祖母や両親が歌ってくれた子守唄を子や孫に伝えていくのが本来の伝統と思う。
歌で時代を知る・♪夕焼け小焼けの赤とんぼ、負われてみたのはいつの日か・・
「負われて」を「追われて」と感じる人も多いが赤とんぼが追われていたなら
とんぼが主語になってしまう。歌は母の背に負われて見た故郷の空が浮んでいる。
作詞をした三木露風が5歳のころ両親が離婚をして母親が家を出て行ったので
或いは母への思い出であり惜別の歌であったかもしれないが童謡のひとつにも
秘話があり背景があることを孫達もいつか理解するときがくる。故郷と言えば
♪うさぎ追いしかの山、小鮒釣りしかの川・・でも現代は高度成長と乱開発で
失われたしまった美しい故郷の情景の悲しい歌に聞こえる。誰にも故郷があり
生まれ育った所の懐かしさや有難さが原風景であり思い出が沢山詰まっている。
原風景とは無垢だった自分を指すが、自分がしっかりあるかぎり大人になって
どんなに辛いことや厳しいことがあっても耐えられるはずだ。現代は何もかもが
デジタルになってイエス・ノーがはっきりした社会の風潮は情緒とか愛情とかの
あいまいな人間味のアナログ的な情感が切り捨てられていくのはとても悲しい。
子供や若い人の多くがケイタイやゲームに漬かり現実と空想がごじゃまぜになり
引きこもりや犯罪の低年齢化が進むのは大人の責任と思う。今こそ子供の心に
原風景を形作るものとして童謡や唱歌の持つ力を再発見したいものと痛感する。