隠居の独り言(989)

慶長10年、家康は秀忠(向井理)に将軍職を譲った。征夷大将軍の地位が
徳川家の世襲であることを天下に示しこれからの世の中は江戸幕府によって
治められる事をはっきりさせる譲位であった。江(上野樹里)にしてみれば
御台所となって我が子を先々将軍職に就くことが保証されて嬉しいはずだが
その一方で姉の淀(宮沢りえ)に対して、すまない思いが気持ちを曇らせる。
もはや関白も天下人も豊臣家に戻る可能性は失せてしまい誇り高い淀だけに
どう受け入れられるか案じるしかなかった。姉妹とは成長するにしたがって
それぞれ環境が変化し同じ屋根に育った頃とは考え方も違っていくものだが
姉妹ゆえに確執、嫉妬、葛藤が他人以上に膨れゆく。まして権威を持つ淀は
地位に固執するあまり人間的にも浅ましくも賤しくなって心が高ぶっていく。
案の定、淀が激怒したとの話が江戸に伝わってきた。それも秀忠将軍就任の
祝いのために秀頼に京都まで挨拶に出てくるよう家康が命じた結果だという。
家康の命令は秀吉の正妻の高台院大竹しのぶ)を通じて淀君に伝えられた。
淀にとり高台院はけっして心安い仲でないことを承知でわざわざ話を進めた。
淀を逆なでするように仕向ける家康の戦略に豊臣方はますます徳川に敵意を
抱き中には即戦争を叫ぶ者もいたという。家康にすればますます術中に嵌る
淀をはじめ豊臣方の狼狽さに、してやったりと内心ほくそ笑んだに違いない。
大河ドラマ「江」は秀忠が第二代将軍となったが江は長男・竹千代の世話を
乳母・福(富田靖子)に独占され良い気がしない。一方の大坂では淀が怒りに
震えていた。京にいる家康(北大路欣也)が秀頼(太賀)に秀忠将軍就任の祝いに
来いという。淀は「上洛を強いるなら秀頼を殺し、私も死ぬ」と言い放つ…。