隠居の独り言(1029)

いつも行きつけの近所の床屋さんが廃業した。店主は今年80歳になるオバサンで
刃物を使う仕事柄、歳も歳なので他人様の顔を傷つける心配があるからとの理由で
床屋を閉めたという。オバサンは腕も良く、いつも明るい人柄は近所で評判だった。
自分も常連だったが散髪しながらオバサンとの話は楽しかった。世間話が殆どだが
生きてきた道、近所のこと、たまに時事評論までレパートリーの広さも魅力だった。
月に一度の楽しみだったオバサン床屋の廃業で駅前の1000円床屋に鞍替えしたが
安いのは結構だがチケット買って頭髪の裾を鋏で揃えるだけの10分少々の散髪で
機械的にベルトコンベアーに乗せられた気分で作業が終わる。昔から床屋といえば
散髪、髭剃り、洗髪の3点セットのはずだが、1000円床屋は情も味もまるで無い。
最近は町の床屋も随分少なくなって原因は若者の床屋離れや低料金のチェーン店の
進出に加え後継者不足で廃業する理容店が増えているという。淋しくなったものだ。
といって愚痴を言っても仕方ない。洗髪は毎日の習慣だし散髪は1000円床屋としても
髭剃りはいつも電気剃刀で一通りは剃っているつもりでもどこかムラが出来てしまう。
とりわけモミアゲのあたりやアゴの下などは上手く行き届かない。その部分は床屋で
月一でサッパリやってもらうのが長年の習慣だった。これからますます顔の皺が増え
髭が気になる歳なのにどうしよう?落語の中で「おぅ、ちょいとあたってくんねぃ」と
床屋に威勢よく客が入ってくるのがあるがチョンマゲ時代は月代も剃ったに違いない。
剃刀というのは結構難しいもので男なら何回か顔に切り傷を作った経験はあるあろう。
ところで考えてみれば髭というのは不思議なもので、だいたい同じ霊長類でありながら
チンパンジーやゴリラなど猿類は全身毛むくじゃらなのに髭が無いのはどうしてか?
なにゆえホモサピエンスつまり人間には体毛が猿より圧倒的に少ないのに更に男だけ
ヒゲが生えているのはどうも解せない。理由を知る御仁がいらしたら教えてもらいたい。
霊長問題はさておき、ある本によると女性らしさの象徴は乳房であり男性は髭だという。
実際イスラム圏ではヒゲが無いと男として扱ってもらえないが日本でも昔の偉い人は
髭を生やしていた。前の一万円札の聖徳太子、今の漱石も口髭、明治の元勲は髭面で
伊藤博文大久保利通大山巌、乃木大将、東郷元帥など・明治、大正、昭和天皇
立派な髭を生やされていた。髭が身分の象徴なのか?髭の薄い自分は現代に生まれて
良かったと安堵している。床屋の話から髭の話に脱線してしまった・・