隠居の独り言(1048)

職業は何十年来の帽子屋なので外出の時にはいつも帽子を被ることにしている。
でも正直言って帽子が手放せなくなったのは歳を重ねてヘッドの砂漠化が進み
若き日々の緑の黒髪も白くなって面影も無い。人生のフイルムは巻き戻せない。
被りだしたのは頭が透け始めた約10年前からで実際に寒い時に帽子を被ると
下着一枚違うほど暖かいし気持ちも落ち着く思いがする。北国の写真を見ると
殆どの人が帽子を被っているが寒冷地では生活必需品のひとつだろう。半面に
真夏の帽子は暑さを随分と和らげる。現代は道路事情や交通手段が便利になり
以前より外を歩くのが少なく帽子を必要としなくなったのか需要も随分減った。
昔の人は帽子を被ったものだ。学生になれば帽子が学校の印だったし社会人は
中折帽や鳥打帽が大人の印だった。昔のモノクロ写真を見ると街を歩く男性は
着ている物がどんな粗末でも足元が靴でなく下駄でも殆どが帽子を被っていた。
日本人の頭を大切にする習慣はチョンマゲの時代から髪床に纏わる話題も多い。
昔のヨーロッパの紳士は山高帽にステッキを持つのがステータスシンボルだが
帽子はイタリアのボルサリーノ社製が有名で同名の映画「ボルサリーノ」では
アランドロンが主役で名を広めた。それにしても帽子を被る人は少なくなった。
少なくなったうえに外国(主にChina)からの低価格の製品が大量に輸入され
帽子製造に携わる職人の仕事は風前の灯だが大きな時代の流れには逆らえない。
一方で帽子は有っても無くてもいい不必要なものに感じられ流行的に男も女も
ヘアメイクに余念がない。真夏日は女性がパラソルを差しているのは涼しげで
帽子は要らないと思うが、男性は暑い日の炎天下でもヘッドが砂漠化されても
無帽の人が多いのは暑苦しく感じる。帽子を被ればお洒落と思うが時の流れは
ノーハットスタイルが定着したのだろう。でも粋な人は小物にお洒落心を配る。
靴、ベルト、バッグ、時計、アクセサリー、ネクタイ、眼鏡、そして帽子など、
商売としてではなく街頭や電車の中で帽子の似合った被り方の人を見かけると
思わず素敵なセンスな方だなぁと見惚れてしまう。歳を重ねれば重ねるほどに
遊び心に興味を持ち、お洒落上手になりたい。