隠居の独り言(1057)

佐渡島で放鳥されているトキの雛が3羽巣立ちをした。4月に孵化した雛鳥が
僅か一ヶ月で親鳥の愛情から離れて淡い朱鷺色の羽を広げてピョンと他の枝に
飛び移ったのが確認されたらしい。自然界の法則といえ雛の逞しさに感嘆する。
アメリカでは高校までは親が面倒を見るが大学に入ると子供は自力をするのが
貧しくない家庭でも普通らしい。その昔、財界の頂点を極めたロッフェラーの
息子がガソリンスタンドでアルバイトをして大学卒業したのは有名な逸話だが
比べて日本の子供たちの親離れが遅すぎる。日本の大学生は当たり前のように
親のスネを齧りサラリーマンになっても仕送りを受ける甘ったれが多いという。
遠くの大学へ入った息子は実家へ毎週宅急便で洗濯物を送り母親はいそいそと
洗濯をして送り返す。何たる親不孝、何たる情けなさ!といって母親のほうも
息子のいなくなった淋しさを洗濯しながら触れあいを楽しんでいるというから
何をか言わんや。中には在学中に恋人が出来アパートの家賃も結婚式の費用も
親が負担する今の風潮は実に情けない。子供は母の日のカーネーションを贈り
父にはバラを贈り親孝行の心算でいるが無邪気に喜ぶ親の顔も考えさせられる。
これは少子化社会の副産物だろう。以前のように子沢山だったら大学どころか
食べさせるだけで精一杯で子供たちは義務教育が終わった時点で親元を離れて
自活の道を選ばざるを得なかった。少子は兄弟が少ないので日常の話し相手も
喧嘩も少なく親の愛情を独り占めにすれば競争心や痛みの経験も欠けるだろう。
ぎすぎすした最近の世相の遠因もそんなところにあるのかも知れない。しかし
トキの巣立ちとは生きとし生きるものの基本であり人間だけが特別に許される
はずがない。小動物は卵が孵った時点で親から教わることなく生きる道を覚え
外敵から年中襲われる危険に晒され命の保証も無く生き残る試練と戦っている。
万物の霊長たる人間が親から巣立ちも出来ずに大人になるのはいかがなものか?
日本の若者よ、しっかりしろ!