隠居の独り言(1099)

先日の新聞のコラムに、短い手紙のコンクール「一筆啓上賞」の入選作一つが載った。
「今までに私をフッてくれた人たち、ありがとう。おかげでこの息子に会えました」
なにも失恋の悩みだけではない。人生の吉凶の変転は予測できないし、幸運を喜んだり
不幸を悲しんだりすることではない。今年のノーベル医学生理学賞の受賞が決まった
山中伸弥氏の歩んできた今までの半生は挫折の連続であったという。失敗は成功の母。
挫折があったからこそ今回の成功がある。山中教授の研究は人間のあらゆる細胞から
iPS細胞をつくり先進医療に生かす今までの医学の常識まで変える人類の夢の研究だ。
生きるということは煎じ詰めれば細胞の分化が連続し成長の前提があってだが細胞を
初期化するという発想は凄いと思う。今の細胞を生まれた時期にまで遡らせて最初から
別の臓器にも変えられるという手品みたいなものでこれが実用化されれば、あらゆる
病気に応用されて難病治療は勿論のこと、失った器官も再生されるというから医学が
どこまで進歩するのか想像もつかない。自分を考えれば、失った歯も再生され、砂漠化した
毛髪も甦り、弱った視力も元に戻り、顔のしみや皺も消えるだろう。遠くない将来に
起こりうるガンや脳疾患等の病も恐れることはない。不老の妙薬も夢でなくなるだろう。
世紀後の歴史学者は人類史に残る最大の人物として山中教授を褒め称えるに違いない。
創造の神は人があまり長生きすると悪知恵が付き、ろくなことがないから命を長くても
100歳位までと定められたが山中教授の研究次第で神の領域にまで入り込んでしまう。
でも我々にとっては嬉しい反面、それでなくても少子高齢化社会がますます顕著になり
元気な年寄りが増え社会の仕組みも人生観も変えてしまうだろう。自分の過ぎた人生は
iPS細胞のように再生は不可能だが、出来ればもう一度、人生を初期化したいと願う。