隠居の独り言(1156)

最近の塾ブームは子供の将来を考えての親の切ない願望だろうが少し度を越している。
学校の新学期が始まったが学年が高くなるにつけ塾の勉強時間も長くなり子供も大変だ。
最近の親たちはすっかり「可愛い子には旅をさせよ」という格言を忘れてしまったのか
誰もが高等教育を受けて大きな組織に入り一生安定した生活を送れるよう望んでいる。
だから多くの親が子供に期待を掛け大多数が塾へ入れるから当然に競争率も高くなる。
脳も体力の一部だから駆け足で足の速いものが勝つように脳力が高ければ一歩抜けて
希望通りの組織に入れるか分からないが、入れば組織の一部で個性は失われるだろう。
有名大学を出て就職先として選ぶのは大企業ばかりだが、それは「寄らば大樹の陰」で
安全運転の人生を最初から決めこむのは冒険を好まない日本人の国民性なのだろうか。
自分が中学校の時、担任の先生の授業の一つを覚えている。黒板いっぱいに大きな鯨が
描かれていた。そしてその横に小さなメダカも描かれた。先生は黒板を指して言った。
「君達は大きくなったら何になりたいのかな?どんな仕事を選んでも自由だが決して
鯨の尻尾に捉まって安心しているようではダメです。譬えメダカでも頭になりなさい」
担任の恩師は川崎先生といわれる。ご存命なら百歳を超えていらっしゃるだろうか?
卒業式の式典で卒業生代表の答辞を読むことを指名して下さった一生の宝物を頂いた。
恩師の出会いは運としか言いようがないが今の自分があるのを感謝してもし切れない。
自分の生い立ちは戦中戦後の時だったといえ学校に通うより食べ物を得るのが先決で
家計の助けに子供も柱の一本で働いたが学友でも通学しないで働いていた生徒もいた。
戦争の最中は一家の大黒柱が赤紙で家を出ると留守を預かる女子供に生活の荷が重く
圧し掛かった。おぼろげの覚えは当然に学校の出席率は悪かった。昭和一桁生まれで
仕事は一人前以上でも新聞があまり読めない人がいるのも当時の世相を反映している。
自分の考えは古いかもしれないが最高学府を出てそれなりの仕事も大切だが、若くして
一つ物を修業することのほうが高い学費を払って卒業証書を貰うより人間の味がする。
電気の松下幸之助も、自動車の本田宗一郎も、作家の吉川英治水上勉も、戦後最高の
政治家だった田中角栄も義務教育しか受けていない。こういう生き方を自分は尊敬する。