隠居の独り言(1169)

人間は様々な欲望を持っている。歳を取るにつれますます欲深くなるのは老人の癖だが
とくに男の場合は顕著に表れる。架空の儲け話で詐欺師にひっかかるのも元はといえば
金銭欲であり頭は老いても欲望だけが旺盛になるので始末が悪い。なかでも欲は欲でも
見苦しいのは自分を自慢する欲で、その自慢も欲望によるものと自ら気付くこともなく
とくに気の置けない話相手にいい気になって昔の手柄話をする。「有名大学を卒業した」
「女にすごくもてた」「人よりも優れていた」「今では悠々自適の暮らし」そのうちに
見境なく話題に尾ヒレが付いて潤色されて「栄光の過去」に酔っている年寄りが多い。
老人には自慢話ほど楽しいものはないのだろう。人生の大半は失敗の積み重ねと思うが
それは都合よく忘却の彼方だ。施設に勤める介護の人の話によると入所している老人の
大半が人より成功した話や異性にもてた話をするときの顔がいきいきしているという。
自分の次には、子供自慢、孫自慢、相手の事情もわきまえないのが老人たる所以だろう。
しかし世間には子や孫のいない方、接触の少ない方、独身の方もいて人それぞれなのに
相手を気遣うことの出来ないのは既に痴呆の一歩が歩きはじめているのかも知れない。
病院のロビーも年寄りが占領しているが話題は病気の詳しさ自慢や持病をひけらかす。
相手も負けずに自分を始め家族の病気が治ったことを自慢げに滔々と喋りは尽きない。
こういう会話が老後の生活の彩りを添えているのだろう。中には健康自慢の老人もいる。
自慢も結構だが、ぜひ社会への貢献に健康体を使ってほしい。でないと滑稽に聞こえる。
今年80歳でエベレストに挑戦している三浦雄一郎は「己の限界への問いかけであり、
大自然に対する畏敬の念と誇り」と話したが老人を元気づける意味でも自慢して欲しい。
イタリアの大統領は87歳の高齢で再任されたが、これから5年の任期を勤めるという。
京都に住む木村次郎右衛門さんはこのほど世界一の116歳になった。これは最高自慢だ。
過ぎた自慢は恥ずべきだが何気なく話す言葉の端々にも人を傷つける配慮を考えたい。
つきつめればブログのエッセーも自慢話の一つだろう。自慢話も、さじ加減が難しい。