隠居の独り言(1189)

今年の直木賞桜木紫乃さん「ホテルローヤル」が決まり芥川賞藤野可織さんの
「爪と目」が選ばれた。お二人とも女性である。OECDの15歳での読書調査によると
殆どの国で女子は男子より読書をしているという。日本の調査でも各年代で男性より
女性の方が読書の時間は長いらしい。読んだ本の傾向も男性はビジネス・趣味など
実用本を好むが女性は文学をはじめとした人文書を好むようだ。つまり男性は必要に
迫られて本を決めているが、その間にも女性は着々と知識と教養を蓄えているので
歳を重ねるごとに男女の生きる知恵の差が開いてくる。そして男は60歳ころになると
定年という会社からの「戦力外通知」を受ける。長年培った経験も人脈も遂に途切れ
会社から石もて追われるごとき運命は残酷であっても世のならいだ。男性は結婚して
子供ができるころは仕事に没頭するようになるが女性は子育てに専念するようになる。
やがて子供が独立するころ、妻はカルチャーセンターで趣味を楽しみ近所付き合いで
お茶飲み友達もできて第二の人生を謳歌するようになり女は歳と共に強くなっていく。
そのころ定年になった夫は今までの肩書も部下もなく、一個人として何ができるのか。
毎日サンデーをどう過ごすか。かくして書店には定年後の指南書の本が山ほどある。
定年後の夫婦関係、婦唱夫随の勧め、ボランティア、趣味のことなど本は親切丁寧だ。
本の通りにうまく出来れば言うことはないが夫は既に老いて小回りも気も利かないし
考えも古臭い。おまけに過去の栄光を忘れられず世の中に同化できない男は哀れだ。
家ですることもなくTVも見飽きた夫は妻の買い物に「おれもついていく」老後になる。
「弱きもの、それは男なり」だが今更嘆いても仕方ない。なかにはウツになる人もいる。
定年後は妻との会話を大切にしよう。例え妻の愚痴話やつまらない話も楽しく聞くこと。
「夫婦とは長い会話である」ニーチェの言葉の通り第二の人生を演じるのも楽でない。
でも中には「今」に興味を持ち今の自分を語れる人がいる。その人は素晴らしい人生だ!
定年とは仕事や肩書から解放され自由気ままな身分になり、当人が本当に好きなもの、
若き日の感受性に満ちたもの憧れたものを晩年に輝かせるのが人生の花道というものだ。